母の死

昨年の夏、久しぶりに長い連休が取れ実家に帰った。

「いつまでいるの?」という母に「4、5日はいようかな」と答える私。母は嬉しそうだった。

実家を出てから早8年。一人でこんなに長く実家に帰るのは始めてだった。

二日目の朝、母のかける掃除機の音が響く中、私は二階のベッドルームでお昼近くまで横になっていた。母には悟られないように明るく振舞ってはいたが心身共に衰弱しており身体を動かすことが難しかったのだ。その理由はまた別の機会に。

ベッド脇に本棚があり大好きな岩館真理子さんの短編集を手に取った。作品名は忘れたがその中のお話で、両親のことが好きだがなかなか素直になれない男性が主人公のお話があった。最後は自宅が火事になり飼っていた金魚を救おうと両親が水槽ごと運ぼうとして逃げ遅れて死んでしまった。主人公が涙を流して終わるラストシーンだったと記憶している。なんとも哀しいお話だと本を閉じて一階の母のいる部屋におりた。

母はいつもお昼寝する姿勢でソファに横になっていた。「おはよう」  返事はなかった。私は洗面台に顔を洗いにいった。顔を洗っている瞬間何かがおかしいことに気付いた。お母さんが青かった気がする。咄嗟に血の気が引き母の元に駆け寄った。

そこには青く冷たくなった母が横たわっていた。何度叫んでも呼んでも母は何も答えてくれなかった。